2026年9月30日、三菱UFJアセットマネジメントの「eMAXIS 高配当全世界株式(オール・カントリー)」、愛称「オルカン高配当」が設定されました。配当払出型と資産成長型の2コースがあり、どちらもNISAの成長投資枠の対象とされています。
特設ページには、「1,000万円を一括投資し、年4%ずつ取り崩しながら20年間運用した場合」という指数ベースのシミュレーションが掲載されています。最終資産残高は2,108万円、取り崩し累計額は913万円という結果です。
魅力的な数字ですが、今回はここを出発点に、少し違う角度から考えます。「取り崩しを始めた直後に大きな暴落が来たらどうなるのか」「50代・60代は何を準備しておけばよいのか」という問いです。
煽るつもりも、特定のファンドを勧めるつもりもありません。ご自身の数字に置き換えて考えるための材料として、お読みいただければ幸いです。
1. オルカン高配当ってどんなファンド?
車野さん、今日「オルカン高配当」という新しいファンドが設定されたそうですね。名前からすると、オルカンの高配当版ということでしょうか。
所長、おおむねそのイメージで大丈夫です。ただ、正確には「オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)」とは別のファンドで、連動をめざす指数も違います。こちらは「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス高配当利回り指数(配当込み、円換算ベース)」という指数への連動をめざすインデックスファンドです。
高配当利回り指数……どうやって銘柄を選んでいるんですか?
交付目論見書によると、親指数である全世界株式の指数の中から、配当の持続性・成長性、財務品質、株価パフォーマンスなどのスクリーニングを経た銘柄のうち、配当利回りが親指数の1.3倍以上の銘柄が採用される仕組みです。財務品質は、ROE(自己資本利益率)、利益の安定性、負債比率などで評価されるとされています。
単に利回りが高い順ではなく、ふるいにかけているんですね。
はい。利回りが高い銘柄の中には、株価が下がった結果として利回りが高く見えているだけの銘柄もあります。そうした銘柄を避ける工夫だと考えられます。特設ページでは、2026年5月末時点の指数の予想配当利回りは3.5%で、親指数の約2倍と紹介されています。
目論見書のデータ(2026年5月末現在)では、アメリカが48.9%、日本が8.1%、スイスが5.9%、イギリスが4.6%、フランスが3.7%です。先進国が85.7%、新興国が14.3%です。特設ページによると、2026年4月時点ではいわゆるビッグ・テックを保有していないため、親指数に比べて米国比率が低くなっているそうです。
両コースの交付目論見書を確認したところ、配当払出型・資産成長型のどちらも、購入時手数料と信託財産留保額はありません。信託報酬も両コース共通で、年率0.165%(税込)以内です。これは純資産総額5,000億円未満の部分の料率で、規模が大きくなると段階的に下がる仕組みです。ただし、監査費用や売買委託手数料など、信託報酬以外の費用もファンドが負担します。そうした費用は、あらかじめ金額を示すことができないとされています。
連動をめざす指数やコスト、リスクの内容は共通で、主な違いは分配と決算の仕組みです。配当払出型は年4回(3・6・9・12月の各14日)の決算で、初回決算日は2026年12月14日です。原則として、経費等控除後の配当等収益の全額を分配する方針とされています。資産成長型は年1回(9月14日)の決算で、初回は2027年9月14日です。信託財産の成長を優先し、原則として分配を抑制する方針です。どちらのコースも、分配金の支払いや金額は保証されていません。
分配金を受け取りたいかどうかで選ぶ、ということですね。
基本的にはそう整理できます。ただ、分配金を受け取るかどうかは、あとでお話しする「取り崩しの計画」とも関わってきます。コースの選び方だけで考えず、全体の中で位置づけるのがよいと思います。
2. 取り崩しシミュレーションの読み方
特設ページの試算、1,000万円が20年で2,108万円になって、しかも913万円を取り崩しているんですよね。すごい数字だと思いました。
過去20年の指数の動きとしては、確かに良好な結果でした。ただ、読むときに押さえておきたい前提が3つあります。
1つ目は、これはファンドの実績ではなく「指数ベース」の試算だということです。ファンドは今日設定されたばかりで、運用実績はまだありません。2つ目は、税金や手数料が考慮されていないことです。3つ目は、取り崩し方が「毎年決まった金額」ではなく、「3・6・9・12月末に、その時点の資産残高の1%」を取り崩す方式だということです。
残高の1%……ということは、残高が減ると取り崩し額も減るんですね。
そうです。グラフを見ると、2007年に年53万円だった取り崩し額が、2009年には26万円まで減っています。ほぼ半分です。資産は尽きにくい方式ですが、受け取る金額は相場に連動して大きく上下します。「毎年一定額が受け取れる」という読み方はできません。
生活費として当てにしていたら、半分になるのはきついですね。
はい。それから、特設ページには「運用状況によっては、資産残高と取り崩し累計額の合計が投資元本を下回る場合がある」という注記もあります。試算期間の結果が良かったことと、この先も同じ結果になることは別の話です。
3. 「回復に14年」を50代・60代はどう受け止めるか
グラフを見ていて気になったんですが、2007年のピークを残高がはっきり上回るまで、14年くらいかかっていますよね。20代・30代なら取り返せても、50代だとかなりまずいし、60代ならもう詰みではないでしょうか。
鋭いご指摘です。まず補足すると、「14年」はグラフからの目測で、しかも取り崩しを続けながらの数字です。取り崩した分を足せば、実質的な回復はもう少し早かったと考えられます。とはいえ、所長のご指摘の核心は正しいと私は思います。
「順序リスク」と呼ばれる考え方です。同じ平均リターンでも、暴落が取り崩しの初期に来るか後半に来るかで、結果が大きく変わります。取り崩し初期に資産が大きく減ると、減った資産から同じ金額を取り崩し続けることになり、回復の土台そのものが小さくなってしまうのです。
若い人は取り崩していないし、むしろ安く買えるから、同じ暴落でも意味が違うんですね。
その通りです。ただ、「詰み」かどうかは、取り崩し方と備え方でかなり変わります。「全資産を株式で持ち、暴落しても決まった額を取り崩し続ける」場合がいちばん厳しく、そこに手を打つ余地がある、というのが今日のお話の中心です。
ちなみに、目論見書には最近の騰落率も載っていましたよね。
はい。ベンチマークの年間騰落率(2021年6月末〜2026年5月末)は、最大値が39.8%、平均値が17.9%、最小値が-0.3%でした。つまり直近5年は、1年単位で見て大きな下落がほとんどない期間だったということです。年次で見ても、2016年以降でマイナスの年は2018年の-9.9%と2020年の-4.8%だけです。
最小値がほぼゼロですか。それだと、暴落を実感として知らない人が増えていても不思議ではないですね。
そう思います。一方で、特設ページの長期データは1999年末からで、ITバブル崩壊やリーマン・ショックを含んでいます。直近5年と長期データのどちらを基準に考えるかで、見える景色はかなり違ってきます。
4. 「暴落を待つ」と「暴落に備える」は違う
でも車野さん、今の相場だと「今株を買わない人の気が知れない」という空気がありますよね。強気の人が多いから相場も好調なわけで、その中で「暴落を待つ」のは、市場では合理的ではないと思うんです。
おっしゃる通り、「暴落を待って買わない」というタイミング狙いは、うまくいかないことが多いとされています。いつ来るか誰にも分からないので、待っている間に上昇相場を取り逃すリスクがあるからです。
ただ、私は「暴落を待つ」と「暴落に備える」は分けて考えたほうがよいと思っています。備えるというのは、株を買わないことではありません。暴落が来ても生活が壊れないように、資産の配分と取り崩しのルールを先に決めておくことです。
なるほど。株を持ちながら、別で準備しておくということですね。
はい。それに、強気の声が多いことも、逆に「強気が多いから暴落が近い」という見方も、判断の根拠としては弱いと私は考えています。相場の空気ではなく、ご自身の年齢、資産、必要な生活費から逆算するのがいちばん揺らぎにくい方法です。次から、具体的な手順を見ていきましょう。
5. 実践ステップ① 生活費のギャップを出す
具体的な手順、ぜひ知りたいです。まず何から始めればいいですか?
最初は「ギャップ」、つまり不足分の計算です。式はシンプルです。
年間の不足分 = 年間の生活費 -(年金 + 働いて得る収入 + その他の収入)
資産からいくら取り崩すか、ではなく、足りない分から考えるんですね。
そうです。たとえば生活費が年300万円で、年金と少しの仕事の収入で年180万円あれば、不足分は年120万円です。資産から取り崩す必要があるのは、この120万円だけです。ここが曖昧なままだと、暴落時に「何を守ればいいのか」が決まりません。
私の場合、年金を受け取る前と後で、不足分がかなり違いそうです。
大事な視点です。年金受給前の期間は不足分が大きく、受給後は小さくなる、という方は多いと思います。期間ごとに分けて計算しておくと、「特に守りを固めるべき期間」が見えてきます。
6. 実践ステップ② 現金の防衛ラインを決める
不足分の何年分を、現金や預金など値動きの小さい資産で持っておくかを決めます。暴落時はこの現金から生活費を出し、下がった株はなるべく売らずに済ませる、という使い方です。
現金の防衛ライン = 年間の不足分 × 備えたい年数
(例)年120万円 × 2年分 = 240万円
正解はありません。1年分とする考え方もあれば、数年分とする考え方もあります。年数を長くするほど暴落時の安心感は増しますが、その分、平時には株で運用する金額が減ります。上の2年分は計算例で、推奨する年数ではありません。ご自身の不安の大きさや、年金受給までの期間と合わせて考えるのがよいと思います。
7. 実践ステップ③ 取り崩しルールを平時に決めておく
| 方式 | 内容 | 長所 | 注意点 |
|---|
| 定額 | 毎年決まった金額を取り崩す | 生活費の見通しが立てやすい | 暴落時に資産を削りやすい |
| 定率 | 残高の一定割合を取り崩す | 資産が尽きにくい | 暴落時に受取額が大きく減る |
| ハイブリッド | 平時は定額、暴落時だけ減らす | 両者の中間 | 事前にルールを決める必要がある |
はい。生活費を当てにする場合は定額に近い考え方になりますが、その分、暴落の影響を強く受けます。そこで、「平時は定額、暴落時は一時的に絞る」「絞った分は現金で補う」といったルールを組み合わせる考え方があります。
配当払出型にして、分配金だけで暮らすという方法はどうでしょう。取り崩さなくていいので、気が楽そうですが。
気持ちの面では分かりやすい方法だと思います。ただ、注意点が2つあります。1つは、分配金が保証されていないことです。配当払出型は、原則として経費等控除後の配当等収益を分配する方針なので、企業が減配すれば分配金も減りますし、分配が行われない場合もあります。リーマン・ショック時には、金融株を中心に減配が相次ぎました。
分配金も、ファンドの資産の中から支払われるということです。目論見書にもある通り、分配金の支払いは純資産総額の減少や基準価額の下落要因になります。また、購入価額や運用状況によっては、分配金の一部または全部が、実質的な元本の一部払戻しに相当する場合があるとも書かれています。「分配金は取り崩しではない」と考えがちですが、資産の一部を受け取っているという点では、仕組みとして似ています。分配金だけに頼るのではなく、分配金も取り崩しの一手段として、全体の計画の中に位置づけるのが無難だと思います。
8. モデルケースで比べてみる
実際に数字で見てみたいです。現金を持っておくと、どれくらい違うものなんですか?
架空のモデルケースで計算してみました。特定の方を想定したものではなく、かなり単純化しています。前提は次の通りです。
【試算の前提】
- 資産3,000万円、年間の不足分120万円(資産の4%)を毎年末に取り崩す
- 株式部分は年5%で一定に推移すると仮定(実際の値動きではありません)
- 暴落ケースでは、1年目に株式が40%下落し、2年目以降は年5%で推移すると仮定
- 現金は利息ゼロ、税金・手数料・インフレ・為替の影響は考慮しない
【10年後の資産残高(概算)】
| ケース | 内容 | 10年後の残高 |
|---|
| A | 暴落なし・全額株式・定額取り崩し | 約3,377万円 |
| A’ | 暴落なし・現金2年分(240万円)を確保 | 約3,350万円 |
| B | 暴落あり・全額株式・定額取り崩し | 約1,283万円 |
| C | 暴落あり・現金2年分から取り崩し、株は売らない | 約1,423万円 |
| D | 暴落あり・全額株式・最初の3年間だけ取り崩しを2割減(年96万円) | 約1,390万円 |
※車野による単純化した試算です。将来の運用成果を示すものではありません。
暴落があると、10年後の残高が半分以下になってしまうんですね……。現金を持っていても、そこまで劇的には変わらないんですか。
はい、そこは正直にお伝えしたい点です。現金の備えがあっても、暴落そのものの影響は消えません。ただ、CとBを比べると約140万円の差があります。そして大事なのは、暴落直後の2年間、下がった株を売らずに生活費を出せることです。暴落の最中に株を売らなくて済むのは、数字以上に精神的な意味が大きいと思います。
逆に、暴落がなかった場合は、現金を持っていた分だけ少し損なんですね。
AとA’の差は約27万円です。これを、暴落に備えるための保険料のように考えるかどうかは、人によって判断が分かれるところです。Dのように、取り崩し額を一時的に減らすだけでも、Bより100万円以上多く残る計算です。現金の確保と取り崩しの抑制を組み合わせれば、さらに差が広がります。
実際の相場は、暴落のあとに大きく戻ることもありますよね。
おっしゃる通りです。この試算は、暴落後も年5%でしか戻らないという、やや厳しめの仮定です。実際には急反発する場合もあれば、低迷が長引く場合もあります。数字そのものより、「暴落が取り崩し初期に来ると、どれくらい効いてくるか」「どの備えがどの程度効くか」という感覚をつかむために使っていただければと思います。
9. 暴落が来たときの行動チェックリスト
それが自然な反応だと思います。だからこそ、平時のうちに「そのとき何をするか」を書き出しておくのが有効です。たとえば、次のような項目です。
【暴落時の行動チェックリスト(例)】
- □ 年間の不足分と、現金の防衛ラインの金額を確認した
- □ 資産が◯%下がったら、取り崩し額を◯%減らすと決めてある
- □ 暴落中の生活費は、まず現金から出すと決めてある
- □ 株式を売るかどうかは、その場の気分ではなく事前のルールで判断する
- □ 現金が減ったら、相場が回復した時期に補充すると決めてある
- □ 支出を減らせる項目(旅行・大きな買い物など)を把握している
- □ 家族と、暴落時の方針を共有している
※◯の数値は、ご自身の状況に合わせて決めてください。
とても良いと思います。書いてあるルールがあると、ニュースやSNSの声に振り回されにくくなります。
10. まとめ
今日のお話で、特設ページの試算の見え方が変わりました。数字をそのまま信じるのでも、疑って買わないのでもなく、自分の数字に置き換えて準備する、ということですね。
はい、まさにそこです。今日のポイントを整理すると、次の通りです。
- 特設ページの試算は指数ベースで、税金・手数料を含まず、取り崩しは残高の一定割合という前提です。
- 暴落が取り崩しの初期に来ると、その影響は大きく残ります(順序リスク)。
- 暴落のタイミングを当てることは難しい一方で、備えは今からできます。
- 不足分を計算し、現金の防衛ラインと取り崩しルールを決め、行動リストを書いておくことが、具体的な第一歩です。
- 高配当ファンドの分配金も保証されたものではなく、計画全体の一部として考えるのが無難です。
暴落がいつ来るかは、私にも誰にも分かりません。ですが、来たときにどうするかは、今日決めておくことができます。相場が好調な今だからこそ、落ち着いて準備できる時期なのかもしれません。
ありがとうございました。まずは自分の不足分を計算するところから始めてみます。
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本記事は、情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入・売却を推奨・勧誘するものではありません。投資信託は元本が保証されておらず、基準価額の下落により損失が生じるおそれがあります。分配金の支払いや金額も保証されていません。投資にあたっては、販売会社から交付される最新の投資信託説明書(交付目論見書)を必ずご確認のうえ、ご自身の判断と責任で行ってください。
記事内の数値・出典について
本記事のファンドに関する記述は、以下の資料に基づいています。
- 三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS 高配当全世界株式(オール・カントリー)」特設ページ(2026年9月11日時点)
- 「eMAXIS 高配当全世界株式(オール・カントリー)配当払出型」投資信託説明書(交付目論見書)(使用開始日2026年9月11日)
- 「eMAXIS 高配当全世界株式(オール・カントリー)資産成長型」投資信託説明書(交付目論見書)(使用開始日2026年9月11日)
目論見書や特設ページの内容は、今後変更される場合があります。最新の情報は、委託会社や販売会社の資料でご確認ください。
指数のデータや特設ページのシミュレーションは過去の実績に基づくもので、ファンドの運用実績ではありません。将来の運用成果を示唆・保証するものではありません。グラフからの読み取り値は目測による概算です。
本記事内のモデルケースは、車野が一定の仮定のもとで単純化して計算したものです。実際の市場の値動き、税金、手数料、インフレ、為替の影響は考慮していません。特定の個人の状況を想定したものではなく、個別の資産配分や取り崩し方法を推奨するものでもありません。
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