車野蔵人レポートシリーズ
同じ決算期に、同じ米国関税という向かい風を受けた2社の決算書を並べて読んでいると、不思議な感覚に襲われる。数字の並び方は似ているのに、読み終えたあとの「手触り」がまるで違うのだ。
今回取り上げるのは、SUBARU(7270)とマツダ(7261)。どちらも2026年3月期に大幅な減益を計上し、どちらも配当は維持し、どちらもトヨタと資本業務提携を結んでいる。条件だけを並べれば「似た者同士」に見える。ところが決算資料を一枚めくるごとに、両社の間には静かに、しかし確実に温度差があることに気づかされる。
これはどちらが優れていて、どちらが劣っているという話ではない。同じ嵐の中で、なぜ揺れ方がこれほど違うのか。今回はその理由を、決算数字を手がかりに、一緒に読み解いてみたい。
1. まず、共通点を確認しておく
対比の前に、フェアであるために共通点を並べておこう。
- 両社とも、2026年3月期は米国追加関税の影響で営業利益が大幅に減少した(SUBARUは前期比▲90.1%、マツダは▲72.3%)
- 両社とも、この状況下で年間配当を「維持」する判断をした(SUBARUは115.50円、マツダは55円)
- 両社とも、トヨタ自動車と資本業務提携の関係にある
- 両社とも、来期(2027年3月期)は大幅な業績回復を見通している
つまり、置かれた環境そのものは驚くほど似ている。だからこそ、そこから先の「歩き方」の違いが、経営の個性としてくっきり浮かび上がってくるのだと思う。
2. 数字で見る違い①:営業キャッシュフローという体温計
決算書の中で、私が一番正直な数字だと思っているのが営業キャッシュフローだ。利益は会計上の見積もりや一時的な費用計上に左右されやすいが、キャッシュフローは「実際に会社にお金が入ってきたかどうか」を映す鏡だからだ。
| 項目 | SUBARU | マツダ |
|---|---|---|
| 営業CF(2026年3月期) | 3,582億円 | 2億円 |
| 前期の営業CF | 4,921億円 | 3,056億円 |
| 配当金支払総額 | 約832億円 | 約347億円 |
| 営業CFは配当を賄えているか | 賄えている | 賄えていない(約344億円不足) |
| 不足分の補い方 | ─ | 長期借入金等の調達 |
SUBARUは営業利益こそ9割減という衝撃的な数字を計上したが、営業CFは3,582億円と、配当総額の4倍以上を確保している。一方のマツダは、営業CFがほぼゼロに近い2億円まで落ち込み、配当総額347億円を大幅に下回った。この差額は、実質的に借入金で埋め合わせている状態だ。

もちろん、マツダにも言い分はある。関税影響という一時的なショックが直撃したタイミングであり、来期の業績回復を見据えれば、この状況は一時的なものだという説明は筋が通っている。ただ、「本業の現金創出力」という一点だけを切り取れば、今回はSUBARUの方が耐久力を残していた、というのは事実として受け止めてよいだろう。
3. 数字で見る違い②:減益の「純度」
「関税のせいで減益になった」という説明は、両社とも決算資料の前面に出している。だが、その中身を分解してみると、実は「関税だけのせい」という言い方が当てはまる度合いに差がある。
SUBARUの場合、営業利益の減少要因(前期比▲2,893億円の事業環境変化)のうち、米国追加関税の影響だけで▲2,269億円、実に約8割を占めている。原材料や為替の影響はあるものの、関税というひとつの外部要因への依存度が非常に高い。
対してマツダの場合、関税影響は▲1,549億円とされているが、これは減益額全体(▲1,345億円、実質的な内訳ベースでは更に大きい下押し要因が複数存在する)のおよそ半分にとどまる。残りは、台数・構成の悪化(販売現場での苦戦)、原材料・物流費の増加、そしてクレジット資産評価損や特別退職費用といった一時的な損失の集中計上が占めている。
つまりマツダの決算は、「関税」という一枚のカードだけでは説明しきれない、いくつもの要因が重なった末の数字だと言える。その背景には、主力SUVであるCX-5のフルモデルチェンジが約8年ぶりだったという事情もある。電動化と内燃機関、中国事業と欧米事業、限られた開発リソースをすべての方向に伸ばそうとした結果、商品サイクルが伸びてしまった――そう見ることもできる。これは経営判断が誤っていたという話ではなく、年間120万台規模の会社が、年間1,000万台規模のトヨタと同じような全方位戦略を追いかけることの難しさ、という構造の問題として理解した方が正確だろう。

4. 資本の守り方の違い:自己株式取得 vs 劣後ローン
同じ「財務基盤を守る」という目的でも、両社が選んだ手段は対照的だった。
SUBARUは2026年5月、上限1,500億円(発行済株式数の11.2%相当)の自己株式取得を決議した。取得期間は2026年5月18日から2027年3月16日まで。実際の消化ペースを見ると、決議直後の5月は取得実績ゼロだったが、6月には約270億円分(10,852,100株)を取得しており、進捗率は約18%まで進んでいる。株主還元を積極的に進める姿勢がうかがえる。
一方マツダは2026年6月29日、新規に700億円の劣後特約付ローンを調達し、同額の既存劣後ローンを期限前弁済(借り換え)すると発表した。この資金調達には普通株式への転換権が付いておらず、株式の希薄化は発生しない。格付機関からは資本性評価「クラス3・50%」を得ており、会計上・格付け上、一定程度「自己資本に近い性質を持つ資金」として扱われる仕組みになっている。弁済期日は2086年という超長期であり、2031年以降は早期返済も選択できる柔軟な設計だ。参画する貸し手には、三井住友銀行や日本政策投資銀行に加え、広島銀行・山口銀行・もみじ銀行といった地元地銀の名前も並ぶ。
| 項目 | SUBARU | マツダ |
|---|---|---|
| 実施した資本政策 | 自己株式取得(上限1,500億円) | 劣後ローンによる借り換え(700億円) |
| 目的 | 資本効率の向上、ROE10%以上の追求 | 財務基盤の維持・強化、調達手段の多様化 |
| 株式への影響 | 発行済株式数が減少(1株価値の希薄化防止) | 転換権なし、希薄化なし |
| 性質 | 攻めの株主還元 | 守りの財務基盤強化 |
これは「マツダが追い込まれている」という話ではなく、マツダも財務基盤を維持・強化するために、資本市場から評価される形の調達手段を選び取っている、という前向きな面がある。地元地銀が引き続き名を連ねていることも、地域金融機関からの信頼が途切れていないことの表れと見ることができる。ただ、同じタイミングで一方が「株主に還元する」動きを見せ、もう一方が「土台を固め直す」動きを見せている、という対照は、両社の置かれた状況の違いを素直に映していると思う。
5. 最新データに見える明るい兆し(マツダ)
決算発表後に出た2026年5月の生産・販売実績を見ると、マツダにも明るい兆しが見え始めている。
- 国内向けCX-5生産:24,446台(前年同月比+2.5%)
- 国内向け新型CX-5販売:1,768台(同+63.3%)
- グローバル販売合計:101,074台(単月で前年同月比+5.7%)
- うち米国販売:39,067台(単月で同+35.0%)
単月のデータだけを見れば、新型CX-5の立ち上がりが軌道に乗りつつあるように読める。特に国内販売の伸び率+63.3%は目を引く数字だ。
ただし、年初来累計(2026年1〜5月)で見ると、グローバル販売は▲7.1%、米国は▲6.9%と、依然としてマイナス圏にあることも忘れてはいけない。単月の好材料と、累計の重さ、両方を見た上で判断する必要がある。新型主力車の立ち上がりが本物かどうかは、もう数ヶ月分のデータの積み上げを待ちたいところだ。

6. 規模と関係の深さが生む戦略の違い
なぜここまで違いが出るのか。突き詰めると、根っこには「規模」と「トヨタとの関係の深さ」という2つの要因があるように思う。
SUBARUは北米市場・AWD(全輪駆動)技術という得意分野に経営資源を集中させてきた会社だ。電動化についても、自社開発BEVの投入時期を柔軟に見直しつつ、当面はICE(内燃機関)系商品の拡充にリソースを寄せるという判断を下した。これは「選択と集中」型の戦い方と言える。
対するマツダは、電動化・内燃機関・中国事業・欧州事業と、幅広い方向に経営資源を配分してきた。年間120万台規模の会社としては、この「全方位」型の戦い方はかなり重い負担になる。トヨタが全方位戦略を貫けているのは、年間1,000万台という規模の大きさに支えられているからであり、同じ判断をマツダが下すのは体力的に容易ではない。
トヨタとの資本関係の深さにも差がある。SUBARUはトヨタが21.46%を保有する筆頭株主であり、会計上は持分法適用関連会社という位置づけだ。マツダもトヨタとの資本業務提携関係にあるが、出資比率はSUBARUよりも小さい。どちらも「対等なパートナー」という表現が使われるが、資本の結びつきの深さという点では、SUBARUの方がより濃い関係を築いていると言える。
これは優劣の話ではなく、それぞれの会社が自社の規模に見合った戦い方を選んできた結果、なのだと思う。
7. 忘れてはいけない視点:働く人と地域経済
決算数字を追いかけていると、つい「投資対象としてどちらが魅力的か」という視点に偏りがちになる。だが、この2社はどちらも、単なる投資対象である以前に、日本のものづくりを支える基幹産業の一角だということを忘れたくない。
マツダは広島を本拠地とする企業であり、地域経済・雇用への影響力は大きい。今回の資金調達に地元の広島銀行・山口銀行・もみじ銀行が参画していることは、地域と一体になって会社を支える関係性が今も続いていることの証だと感じる。サプライヤー各社との結びつきも深く、マツダの業績はそのまま地域経済の体温に直結している。
SUBARUも同様に、群馬県(太田・大泉地区)の地域経済を支える存在であり、航空宇宙分野を含む技術基盤は日本のものづくり全体にとっても重要な資産だ。
どちらの会社の決算を読むときも、その先にたくさんの働く人たちの生活があることを、頭の片隅に置いておきたいと思う。
8. まとめ:優劣ではなく「今の体力の違い」というだけの話
ここまで見てきた違いを整理すると、こうなる。
- SUBARUは、営業CFが配当を上回る水準を保ち、減益要因もほぼ関税一色というシンプルな構図。自己株式取得という「攻め」の株主還元も進めている
- マツダは、営業CFがほぼ消失し、配当は借入で補完。減益要因は関税以外の本業要因も絡み合う複雑な構図。劣後ローンという「守り」の資金調達で足元を固めている
だが、これは経営の優劣を断定するものではないと考えている。SUBARUが今回「たまたま」外部要因への依存度が高い分、回復も外部環境次第で見えやすい構図になっているだけかもしれないし、マツダが抱える課題は、新型CX-5の立ち上がりや為替次第で来期には様相が変わってくる可能性も十分にある。実際、2026年5月の単月データではマツダの主力車販売に明るい兆しも見え始めている。
投資家としてできることは、どちらが「勝ち組」かを決めつけることではなく、それぞれの会社が語る回復シナリオの前提条件(関税環境、為替水準、新型車の立ち上がり具合)が、実際にどこまで実現していくのかを、次の決算、その次の決算と、じっくり追いかけていくことなのだと思う。
同じ嵐の中でも、船の造りが違えば揺れ方は変わる。今回見えたのは、その造りの違いを映し出す、ひとつの決算期の記録だったのだと思う。
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本記事における両社の経営判断・事業戦略・業界慣行への言及は、公表資料に基づく事実整理を目的としたものであり、いずれかの企業を批判したり、優劣を断定する意図はありません。
情報基準日:2026年7月16日
本記事に登場する「車野蔵人(くるまの くろうど)」は、AIが生成した架空のキャラクターです。実在する人物・アナリストとは一切関係ありません。
© 高配当株研究所 ※本記事はAIによる分析を含みます。投資推奨ではありません。


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