含み益をどう使うのか――“持っているだけ”では評価されない時代へ
前回の記事では、J-REIT市場が「高利回り商品」として見られる段階から、より経営力を問われる段階に移りつつあるのではないか、という話をしました。
J-REITは終わった市場ではない。
ただし、かつてのように「分配金利回りが高いから買われる」という単純な市場でもなくなってきている。
当ラボでは、現在のJ-REIT市場をそのように見ています。
では、その「経営力」とは具体的に何を指すのでしょうか。
そのひとつが、含み益の使い方です。
J-REITは多くの不動産を保有しています。そして、保有物件の鑑定評価額が帳簿価額を上回っている場合、その差額は含み益として認識されます。
この含み益は、投資家にとって安心材料になり得ます。
一方で、ただ存在しているだけでは、投資主の手元に直接届くものではありません。
つまり、含み益は「あるかないか」だけではなく、どう使うかが問われる時代に入っているのではないでしょうか。
含み益はJ-REIT市場の大きな強み
まず、J-REIT市場全体で見れば、含み益は大きな強みです。
三井住友トラスト・アセットマネジメントの資料では、2025年11月期のJ-REIT保有不動産の含み益は約6.3兆円、簿価比でみた含み益率は約28%とされており、引き続き高水準を維持していると説明されています。
また、ニッセイアセットマネジメントの2026年2月資料でも、2025年11月末決算時点のJ-REIT保有物件の含み益額は6兆1,897億円、含み率は27.4%とされ、東証REIT指数算出開始以来の最高水準とされています。
この数字を見る限り、J-REITが保有する不動産には、相当程度の価値の蓄積があると考えられます。
もちろん、鑑定評価額は市場価格そのものではありません。
また、物件を売却しようとしても、タイミングや買い手、テナント状況、立地、用途によって実際の売却価格は変わります。
それでも、簿価を大きく上回る資産を多く保有していることは、J-REIT市場にとって重要な支えです。
言い換えれば、J-REITには「目に見えにくい余力」がある。
この点は、過度に悲観する必要のない材料だと思います。
しかし、含み益はそのままでは分配金にならない
ただし、ここで注意したいことがあります。
含み益は、投資家にとって魅力的な言葉です。
しかし、含み益はそのままでは現金ではありません。
保有物件の鑑定評価額が上がっていても、その物件を売却しなければ売却益は実現しません。
そして、仮に売却益が実現しても、それをどう使うかによって投資主への影響は大きく変わります。
たとえば、売却益を分配金として還元すれば、短期的には投資家にとってわかりやすいメリットになります。
一方で、その物件が収益力のある優良物件だった場合、売却後の賃料収入は減ります。
一時的に分配金が増えても、その後の巡航分配金が下がる可能性もあります。
逆に、売却代金を財務改善に使えば、借入金の削減やLTV低下につながります。
これは短期的な分配金インパクトは小さいかもしれませんが、金利上昇局面では中長期的な安定性を高める可能性があります。
あるいは、売却代金を新しい物件取得に使えば、ポートフォリオの入れ替えにつながります。
ただし、その新規取得物件が本当に既存物件より魅力的かどうかは、慎重に見なければなりません。
つまり、含み益は「宝の山」ではありますが、掘り方を間違えると地盤沈下します。
不動産だけに。ここは笑ってよいところです。
含み益の使い道は大きく4つある
J-REITが含み益を投資主価値につなげる方法は、大きく分けると4つあります。
1. 売却益を分配金として還元する
最もわかりやすいのは、物件を売却して得た利益を分配金として還元する方法です。
投資家にとっては、分配金の増加という形でメリットが見えやすくなります。
特に、投資口価格が低迷している局面では、「投資主に還元する姿勢」を示す効果もあるでしょう。
ただし、注意点もあります。
売却益による分配金は、基本的には一時的なものです。
そのため、売却益込みの分配金だけを見て「このREITは増配基調だ」と判断すると、やや危うい場合があります。
本当に見るべきなのは、売却益を除いた巡航ベースの分配金です。
一時的な売却益で分配金が増えているのか。
それとも、賃料収入や費用改善によって本質的に分配金が増えているのか。
この違いは、投資判断においてかなり重要です。
2. 財務改善に使う
次に、売却代金を借入金の返済や財務改善に使う方法があります。
これは一見すると地味です。
分配金がすぐに大きく増えるわけではないため、投資家から見ると少し物足りなく感じるかもしれません。
しかし、金利上昇局面では、この地味な判断が効いてきます。
借入金を減らせば、LTVの低下につながります。
将来の借り換え負担も軽くなります。
金利上昇に対する耐性も高まりやすくなります。
現在のように金利環境が変化している局面では、「いかに増やすか」だけでなく、「いかに守るか」も重要です。
高い利回りを出していても、財務に余裕がなければ市場は不安を感じます。
逆に、分配金の伸びは派手でなくても、財務運営が堅実なREITは、長期投資家から評価されやすい可能性があります。
3. 資産入替に使う
三つ目は、資産入替です。
これは、含み益のある物件を売却し、その資金を使って新しい物件を取得する方法です。
たとえば、築年数が進んだ物件、将来的な競争力に不安がある物件、賃料成長が見込みにくい物件を売却し、より成長性のある物件に入れ替える。
このような資産入替がうまくいけば、ポートフォリオ全体の質を高めることができます。
ただし、資産入替は簡単ではありません。
売却時には良い価格で売れるかが重要です。
取得時には高値づかみを避ける必要があります。
そして、売却物件と取得物件の利回り差、築年数、立地、テナント属性、賃料成長余地などを総合的に見なければなりません。
投資家としては、単に「売却しました」「取得しました」ではなく、その入替によって何が改善したのかを見る必要があります。
NOI利回りはどう変わったのか。
築年数は若返ったのか。
立地の質は上がったのか。
テナント分散は改善したのか。
将来の修繕負担は軽くなったのか。
分配金への影響はどうか。
この説明が丁寧なREITは、経営力が見えやすいと感じます。
4. 自己投資口取得に使う
四つ目は、自己投資口取得です。
株式でいう自社株買いに近い考え方です。
J-REITでも、投資口価格が1口当たりNAVを大きく下回っているような局面では、自己投資口取得が投資主価値向上につながる場合があります。
なぜなら、割安な価格で自らの投資口を取得・消却できれば、1口当たりの価値が高まりやすいからです。
もちろん、J-REITは収益不動産を保有して分配金を出す仕組みですから、手元資金を自己投資口取得に使うことが常に最適とは限りません。
物件取得に使った方がよい場合もあります。
財務改善に回した方がよい場合もあります。
しかし、NAV倍率が低い局面では、自己投資口取得は有力な選択肢になり得ます。
実際、J-REIT市場全体のNAV倍率については、2026年1月16日に1.00倍を回復したとの指摘もあり、NAV倍率はJ-REITのバリュエーションを見るうえで重要な指標です。
投資口価格が資産価値に対して割安に放置されているなら、外部成長よりも自己投資口取得の方が合理的ではないか。
このような視点は、今後さらに重要になっていく可能性があります。
投資家が見るべきポイント
では、個人投資家はJ-REITの含み益をどう見ればよいのでしょうか。
当ラボでは、少なくとも次の5点を確認したいと考えています。
1. 含み益率は高いか
まずは、保有物件全体でどれくらい含み益があるのかを見ます。
含み益率が高いREITは、保有資産に一定の余力があると考えられます。
ただし、含み益率が高いから必ず良いというわけではありません。
都心の優良物件を長く保有しているために含み益が大きい場合もあれば、売却しにくい物件に評価益が乗っているだけの場合もあります。
重要なのは、含み益の「質」です。
2. 含み益がどの物件に偏っているか
含み益が大きくても、それが一部の物件に集中している場合があります。
たとえば、旗艦物件に大きな含み益がある一方で、他の物件にはあまり余力がない。
この場合、その旗艦物件を売却すれば大きな利益は出ますが、同時にポートフォリオの象徴的な資産を失うことにもなります。
逆に、複数の物件に広く含み益が分散していれば、売却候補を選びやすくなります。
含み益は金額だけでなく、どこに存在しているのかを見ることが重要です。
3. 売却益込みの分配金かどうか
分配金が増えているときは、その増加が何によるものかを確認する必要があります。
賃料収入の増加なのか。
費用削減なのか。
物件売却益なのか。
一時的な内部留保の取り崩しなのか。
売却益による増配は、投資家にとってありがたいものです。
しかし、それが継続的な実力なのか、一時的な還元なのかは分けて考える必要があります。
ここを見誤ると、「増配だと思っていたら、実は一回限りだった」ということになりかねません。
4. 売却後の巡航分配金は維持できるか
物件を売却すれば、その物件から得ていた賃料収入はなくなります。
したがって、売却益によって一時的に分配金が増えたとしても、翌期以降の巡航分配金が下がる可能性があります。
重要なのは、売却後も分配金の基礎体力が維持されるかどうかです。
売却益で一時的に分配金を上げるだけなのか。
それとも、売却後の資産入替や財務改善によって、将来の分配金安定につなげているのか。
ここに運用会社の腕が出ます。
5. その活用策に説明力があるか
最後に、最も重要なのは説明力です。
含み益をどう使うかについて、REIT側が明確な考え方を示しているか。
なぜその物件を売るのか。
なぜその資金使途を選ぶのか。
投資主価値にどうつながるのか。
短期の分配金と中長期の安定性をどう両立させるのか。
この説明がないまま「売却しました」「分配します」だけでは、投資家としては判断が難しくなります。
逆に、多少地味な施策であっても、納得できる説明があれば、長期的には評価される可能性があります。
含み益は「保険」でもあり「宿題」でもある
含み益は、J-REITにとって大きな保険です。
不動産価格が上昇してきたことで、多くのJ-REITは保有資産に余力を持っています。
これは、金利上昇や投資口価格の低迷に対する一定の支えになります。
しかし、含み益は同時に宿題でもあります。
市場が低迷しているとき、投資家はこう考えます。
「これだけ含み益があるなら、なぜ投資口価格は評価されないのか」
「その含み益は、いつ投資主に返ってくるのか」
「本当に使える含み益なのか」
「含み益を使って、分配金やNAVを高められないのか」
この問いに答えられるREITと、答えられないREITでは、評価に差が出てくるかもしれません。
つまり、含み益は持っているだけでは不十分です。
どう使うか。
どう説明するか。
どう投資主価値につなげるか。
ここが、これからのJ-REITを見るうえで重要なポイントになると考えます。
おわりに
J-REIT市場には、まだ大きな資産価値が眠っています。
市場全体で見れば、含み益は高水準にあります。
しかし、それが投資主にとって本当の価値になるかどうかは、各REITの判断にかかっています。
売却益として還元するのか。
財務改善に使うのか。
資産入替に使うのか。
自己投資口取得に使うのか。
あるいは、優良資産として保有し続けるのか。
どの選択肢にもメリットとリスクがあります。
だからこそ、単純な正解はありません。
ただ、これからのJ-REIT市場では、含み益を「持っていること」よりも、含み益をどう使うかを説明できることが重要になるのではないでしょうか。
J-REITは高利回り商品から、経営力を問われる市場へ。
その経営力が最も見えやすい場面のひとつが、含み益の活用です。
次にJ-REITの決算資料を見るときは、分配金利回りだけでなく、ぜひ含み益のページにも注目してみてください。
そこには、そのREITがこれからどこへ向かおうとしているのか、そのヒントが隠れているかもしれません。
免責事項
【AIによる作成について】
本記事は、AIによる分析をベースに作成しています。AIは決算説明資料および有価証券報告書を参照して分析を行っていますが、読み取りの誤り・解釈の相違・情報の欠落が生じる可能性があります。本記事の内容は情報提供を目的としたものであり、その正確性・完全性を保証するものではありません。
【投資に関する免責事項】
本記事は特定の銘柄への投資を推奨・勧誘するものではありません。投資にはリスクが伴い、投資元本が保証されるものではありません。J-REITへの投資においては、分配金の減少・投資口価格の下落・上場廃止などのリスクがあります。投資に関する最終的な判断はご自身の責任において行ってください。投資判断に際しては、必要に応じて証券会社・ファイナンシャルプランナーなど専門家へのご相談をお勧めします。


コメント