2026年9月11日、アストロスケールホールディングス(186A)が2027年4月期第1四半期決算を発表しました。
前回分析(2026年6月18日)から約3か月、株価は1,331円から1,010円へさらに下落し、5月につけた高値約2,700円からは約63%の下落となっています。
この間、306億円の大型資金調達、英国国家デブリ除去ミッションの失注、フランスでの新規受注、次期実証機の打上げ契約締結と、材料が目まぐるしく交錯しました。
今回は継続チェックの2回目として、この3か月で「何が変わり、何が変わらなかったか」を数字で分解していきます。
同社は2027年4月期も無配(予想0円)であり、配当利回りは0.00%です(決算短信P.1)。高配当銘柄ではありません。本記事は「成長テーマ株として今仕込む価値があるか」という観点で構成しており、配当については深追いしません。
はじめに──なぜ今、アストロスケールが話題なのか
所長ダル


アストロスケールは「軌道上サービス」の専業企業です。地球を周回する衛星やデブリ(宇宙ごみ)に対して、接近・捕獲・軌道離脱・燃料補給・点検といったサービスを提供します。事業は4つの区分に整理されます。
| 区分 | 内容 | 主なプロジェクト |
|---|---|---|
| ADR | 既存デブリの除去 | ADRAS-J2(日・120億円)、CAT-IOD(英) |
| EOL | 運用終了衛星の除去 | ELSA-M(英・31.6百万ユーロ)、仏CNES案件(23.6億円) |
| LEX | 衛星の寿命延長・燃料補給 | REFLEX-J(日・108億円)、APS-R(米・57億円)、LEXI-P(米・民間) |
| ISSA | 軌道上の点検・状況把握 | ISSA-J1(日・120億円)、Orpheus(英)、防衛省案件(日・66億円) |
出典:決算説明資料P.26、P.27
収益構造の最大の特徴は、顧客のほぼ全てが政府機関・防衛機関である点です。2026年7月末の受注残高363.5億円の内訳は、政府274.4億円・防衛85.2億円・民間3.9億円。民間比率はわずか約1.1%です(説明資料P.22)。
もう一つ、読み方に注意が必要なのが「プロジェクト収益」というNon-IFRS指標です。同社は案件によって、顧客から対価として受け取る場合(IFRS上の売上収益)と、政府補助金として受け取る場合(その他の収益)があり、会計上の計上場所は違っても事業実態としては同じ仕事です。そのため両者を合算した「プロジェクト収益=売上収益+政府補助金収入」を主要KPIとしています(短信P.3)。同社自身が「IFRSの代替指標として考慮されるべきではない」と注記している点も含め、この二本立ての構造を押さえないと数字を誤解しやすい銘柄です。
同社は、民間企業として世界で初めて非協力物体(自ら制御できない物体)へのRPO(ランデブー・近傍運用)技術の軌道上実証に成功した企業であると説明しています(短信P.5)。直接の競合として最も明確なのは、スイスのClearSpace(クリアスペース)です。両社は2021年以降、英国宇宙庁の国家デブリ除去ミッションで「COSMIC」対「CLEAR」という一騎打ちの構図で並走してきました。
株価は2026年5月27日前後に約2,700円のピークをつけた後、現在1,010円まで下落しています。この間に材料が激しく交錯しました。6月に総額306億円の大型資金調達(転換社債+第三者割当)を実施し手元資金は349億円へ。8月には期待されていた英国COSMICフェーズ3を失注(スイスClearSpaceが£61.3百万で受注)。9月の1Q決算では受注高が前年同期比▲84.4%と急減する一方、フランスCNES案件(23.6億円)の受注とADRAS-J2の打上げ契約締結を同時開示しています。背景には、英国が今後4年間で約2,980億ポンドを投じる防衛投資計画を公表するなど、宇宙防衛という巨大テーマの追い風があります。市場では「宇宙防衛テーマの本命なのか、資金を燃やし続ける赤字企業なのか」で見方が真っ二つに割れている局面です。
会社概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 株式会社アストロスケールホールディングス |
| 証券コード | 186A(東証グロース市場) |
| 代表者 | 代表取締役社長 グループCEO 岡田光信氏/取締役副社長執行役員 グループCFO 松山宜弘氏(決算短信P.1) |
| 設立・上場 | 2013年創業、2024年6月東証グロース上場 |
| 決算期 | 4月期(第1四半期=5月1日〜7月31日) |
| 会計基準 | IFRS |
| 時価総額 | 1,435億円(みんかぶ様・かぶたん様、2026年9月11日時点) |
| 発行済株式数 | 142,120,700株(短信P.2) |
| セグメント | 「軌道上サービス事業」の単一セグメント(短信P.13) |
主要財務指標
| 指標 | 26/4期通期実績 | 27/4期1Q実績 | 前年同期比 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| プロジェクト収益(Non-IFRS) | 115.0億円 | 2,024百万円 | ▲14.5% | 短信P.1 |
| うち売上収益(IFRS) | 59.4億円 | 1,195百万円 | ▲4.4% | 短信P.1 |
| うち政府補助金収入 | 55.6億円 | 829百万円 | ▲25.9% | 説明資料P.15 |
| 売上総利益 | +0.2億円 | 72百万円 | 前年30百万円 | 説明資料P.15 |
| 売上総利益率 | 0.3% | 6.0% | 前年2.4% | 説明資料P.15 |
| 営業損失 | ▲99.7億円 | ▲2,750百万円 | 前年▲2,376百万円 | 短信P.1 |
| 営業利益率 | ▲167.9% | ▲230.0% | 前年▲190.0% | 説明資料P.15 |
| 調整後EBITDA | ▲87.2億円 | ▲2,477百万円 | 前年▲2,064百万円 | 短信P.1 |
| 当期(四半期)損失 | ▲67.0億円 | ▲3,071百万円 | 前年▲1,211百万円 | 短信P.1 |
| EPS | ▲52.89円 | ▲22.13円 | 前年▲9.23円 | 短信P.1 |
| BPS | 約56.3円 | 約90.44円 | ― | IRBANK様 |
| 自己資本比率 | 23.8% | 22.2% | ― | 短信P.1 |
| 営業CF | ▲124.9億円 | ▲2,896百万円 | 前年▲4,319百万円 | 短信P.4 |
| 投資CF | ▲69.3億円 | ▲1,327百万円 | 前年▲1,886百万円 | 短信P.4 |
| フリーCF | ▲194.1億円 | ▲4,223百万円 | 前年▲6,206百万円 | 説明資料P.20 |
| 現金及び現金同等物 | 100.2億円 | 349.5億円 | ― | 短信P.6 |
| 有利子負債 | 105.7億円 | 304.7億円 | ― | 説明資料P.19 |
| 受注高 | 84.5億円(年間) | 224百万円 | ▲84.4% | 説明資料P.15 |
| 受注残高(想定含む) | 379.4億円 | 363.5億円 | 前期末比▲4.2% | 短信P.5 |
| 全額拠出案件比率 | 89% | 94% | ― | 説明資料P.22 |
| 平均案件期間 | 3.6年 | 2.6年 | ― | 説明資料P.22 |
| 年間配当(参考値) | 0円 | 0円(予想も0円) | ― | 短信P.1 |









業績推移(過去7期+今期予想)
| 決算期 | 売上収益(百万円) | 営業利益(百万円) | 営業利益率 | EPS(円) | 受注高(百万円) | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 20/4期 | 84 | ― | ― | ▲77.28 | ― | 創業期・研究開発フェーズ |
| 21/4期 | 651 | ― | ― | ▲70.44 | ― | ELSA-d打上げ |
| 22/4期 | 910 | ▲6,404 | ▲703.5% | ▲66.95 | ― | ― |
| 23/4期 | 1,792 | ▲9,665 | ▲539.1% | ▲102.88 | ― | 英国・米国拠点の拡大 |
| 24/4期 | 2,852 | ▲11,555 | ▲405.1% | ▲101.45 | 6,793 | ADRAS-J打上げ |
| 25/4期 | 2,456 | ▲18,755 | ▲763.3% | ▲188.91 | 30,704 | IPO年度。先行投資ピーク。受注高が急増(転換点) |
| 26/4期 | 5,940 | ▲9,975 | ▲167.9% | ▲52.89 | 8,445 | 売上倍増+赤字半減、売上総利益が通期黒字化(19百万円)。一方で受注高は前期比▲72.5% |
| 27/4期(予) | 7,000〜9,000 | ▲9,900〜▲9,000 | ― | ▲76.38〜▲69.17 | ― | プロジェクト収益125〜170億円。受注済案件のみで構成 |
| (参考)27/4期1Q | 1,195 | ▲2,750 | ▲230.0% | ▲22.13 | 224 | 進捗率13.3〜17.1% |
出典:決算説明資料P.28(Appendix 過年度財務情報)、IRBANK様、短信P.2









継続チェックメモとの照合(27/4期1Q)
前回メモで採用した4軸フレームワーク(資金/受注・収益化/技術・マイルストーン/外部環境・政策)に沿って、3か月間の変化を整理します。
| 軸 | 前回(2026年6月) | 今回(2026年9月) | 方向 |
|---|---|---|---|
| 資金の持久力 | 〇 大幅改善 306億円調達完了、ランウェイ約3年 | △ やや後退 現預金349億円を確保。ただし実績ベースのランウェイは約2.1年。CB転換価額2,208円に対し株価1,010円で、転換による資本増強は当面期待しにくい | ↘ |
| 受注・収益化 | △ 改善と懸念が混在 売上総利益黒字化〇/受注残ピークアウト△ | △ 横ばい 受注残363.5億円で懸念ライン350億円の手前。四半期売上総利益率6.0%と過去最高。ただし新規受注はほぼ停止 | → |
| 技術・マイルストーン | 〇 順調 4機種が打上げライン上 | 〇 維持 全案件が順調に進捗。ADRAS-J2の打上げ契約を締結 | → |
| 外部環境・政策 | ◎ 強い追い風 | ◎ 維持 英Defence Investment Plan、日本の宇宙活動法改正、EUの優先分野再確認 | → |
| 競争環境(今回新設) | ― | × 新たな懸念 英国初の国家デブリ除去ミッションをスイスClearSpaceに喪失 | 新規 |
前回メモの総括は「評価軸は短期の倒産リスクから中期の収益化スピードへ移行した」でした。今回はこう言い換えられます──収益化スピードは上がらず、代わりに「競争環境」という新しい評価軸が加わった。前回記事のキーフレーズ「決算が悪いのではなく物語が空白」に対する今回の答えは、物語は動いた、ただし望んだ方向ではなかった、というものです。英国で負け、フランスで勝った。受注残は減ったが、案件の質は上がった。手元資金は3.5倍に増えたが、株価は転換社債の転換価額の半値以下。動いてはいるが、収益化に向かっていると断言できる材料はまだ揃っていない、というのが本レポートの総括です。
【最優先】受注残高の動向
| チェック項目 | 前回(26/4期末) | 今回(26/7末) | 判定 |
|---|---|---|---|
| 受注残高(想定含む) | 379億円 | 363.5億円(▲4.2%) | △ |
| うち受注済残高 | 274.4億円 | 258.5億円 | △ |
| うち受注内定済案件総額 | 105億円 | 105億円(変動なし) | × |
| 四半期受注高 | ― | 2.2億円(前年同期比▲84.4%) | × |
| 単独50億円超の新規受注 | ― | なし | × |
出典:決算説明資料P.22、短信P.14
前回メモの目安(450億円超なら反転/350億円割れなら懸念深まる)に照らすと、363.5億円は「懸念ラインの手前で踏みとどまった」水準です。反転には遠く、悪化もしていない、最も評価しづらい中間地帯に着地しました。懸念ラインまでの余裕は13.5億円しかありません。
懸念材料として最も重いのは、受注内定済案件総額105億円が1円も動いていない点です。この105億円はISSA-J1フェーズ3(想定38億円)とREFLEX-J 3年目以降(同66.9億円)で構成され、いずれも「競合が存在しないため受注が期待できる」と同社が認識している案件です(短信P.14注2)。競合がいない案件ですら四半期中に契約締結に至らなかったという事実は、受注停滞の原因が需要側ではなく契約手続き・予算執行のタイミングにある可能性を示唆します。これは「時期ずれ説」を補強する材料でもあり、逆に言えば次の四半期でも動かなければ時期ずれでは説明しきれなくなるということです。
一方、受注残高の「質」は一段と改善しています。
| 質の指標 | 25/4期 | 26/4期 | 26/7末 | 方向 |
|---|---|---|---|---|
| 全額拠出案件比率 | 80% | 89% | 94% | 改善継続 |
| 平均案件期間 | 4.0年 | 3.6年 | 2.6年 | 短縮継続 |
この2つを組み合わせると、363.5億円÷2.6年≒年間約140億円の収益転換ペースとなり、通期プロジェクト収益予想125〜170億円のレンジ中位と整合します(前回は379億円÷2.8年=135億円)。絶対額は減ったが、年間収益への転換力はむしろ微増している。ただしそれは「既にある仕事を早く消化している」ことの裏返しでもあり、新規補充がなければ受注残高は加速度的に減っていく構造でもあります。ウォッチポイントは、入札/契約交渉中の政府1件(約130億円)・防衛1件(約30億円)・民間1件(約70億円)の計3件のいずれか、または受注内定済105億円のいずれかが2Qで契約締結に至るかです。450億円超への反転には単独100億円級の受注が1件必要な計算になります。
【最優先】売上総利益の継続性
| 四半期 | 26/4期Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | 27/4期Q1 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上総利益(百万円) | 30 | ▲7 | 37 | ▲41 | 72 |
| 売上総利益率 | 2.4% | ▲0.6% | 2.1% | ▲2.7% | 6.0% |
出典:決算説明資料P.16 総合判定:○
四半期ベースで黒字を維持できているかについては黒字。前期は黒字と赤字を交互に繰り返していましたが、今回は金額・率とも過去5四半期で最高です。売上総利益率は2.4%→6.0%と改善傾向にありますが、売上収益が1,524→1,195百万円へ減少する中での改善であり、分母が縮んだことによる率の改善が含まれる可能性には留意が必要です。通期5%超を視野に入れられるかについては、1Q単独では達成していますが、通期予想では「引き続き通期黒字の維持を目指す」とされるのみで利益率の目標値は示されていません(短信P.5)。前期通期実績が0.3%だったことを踏まえると、通期5%は依然ハードルが高いと考えられます。
売上総利益の黒字化が構造的・持続的であるという仮説は支持寄りに傾いたと評価できます。根拠は単に黒字だったからではなく、全額拠出案件比率94%という構造要因が同時に改善しているためです。ただし4四半期連続の黒字を確認するまでは「支持寄り」にとどめるのが妥当です。なお同社の長期財務目標は売上総利益率30%台半ば(短信P.5)。6.0%はその5分の1の地点であり、「黒字化した」と「収益事業になった」の間には依然として大きな距離がある点は押さえておくべきです。
【重要】キャッシュフローと現預金
| 項目 | 前年同期 | 今回 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 営業CF | ▲4,319百万円 | ▲2,896百万円 | ○(改善) |
| 投資CF | ▲1,886百万円 | ▲1,327百万円 | △ |
| フリーCF | ▲6,206百万円 | ▲4,223百万円 | ○ |
| 財務CF | +10,438百万円 | +29,174百万円 | ― |
| 現預金 | 25,810百万円 | 34,952百万円 | △ |
総合判定:△。前回メモでは「調達後ベース400億円程度」を想定していましたが、実際には349億円です。差の要因は、①1QのフリーCF▲42.2億円、②調達額306億円のうち一部が短期借入金の返済(純減▲2,277百万円)に充当されたこと、と考えられます。
前回メモでは「ランウェイ約3年に伸長」と評価していましたが、実績ベースでは短めに見積もる必要があります。1QフリーCF▲4,223百万円×4=年間約169億円の資金流出ペース。349億円÷169億円=約2.1年。CB満期が2029年6月5日であることを踏まえると、2028年後半には次の資金調達の検討が必要になる計算です。前回メモの「CB満期までの残り時間を意識した観察」は、想定より前倒しで意識すべき段階に入りつつあると考えられます。
投資CFの内訳では、有形固定資産の取得777百万円は前年同期1,852百万円から減少しましたが、無形資産の取得が5百万円→550百万円へ急増しています(短信P.12)。ミッション関連ソフトウェアの資産計上によるものです。金額自体は大きくありませんが、資産計上が増えれば将来の減価償却負担が増える構図です。実際、減価償却費は242→273百万円(+12.8%)と増加基調にあり、同社が今期から調整後EBITDAの開示を始めたのも「衛星の資産化開始等も踏まえ」との説明があります(説明資料P.15)。今後、営業損益とEBITDAの乖離が広がる点は継続観察が必要です。
【重要】2027年4月期予想の修正有無
総合判定:○。レンジの上下は変更なし。プロジェクト収益125〜170億円、営業損失▲99〜▲90億円を維持しています(短信P.2)。新規受注を理由とした上方修正はなく、上方修正余地という仮説は今回未検証にとどまりました。進捗率はプロジェクト収益10.6〜14.4%、売上収益13.3〜17.1%(説明資料P.15)。同社は「第1四半期は例年低進捗」と説明していますが、前期1Qの売上収益1,250百万円に対し通期5,940百万円で進捗21.0%でした。今回の進捗はその水準を下回っており、レンジ下限寄りでの着地を意識せざるを得ないと考えられます。
【最重要】LEXI-Pの民間契約締結
総合判定:×。「最終段階」とされた契約は未締結です。今回も「契約締結に向けて最終段階に入っています」(短信P.2)、「LEXI-P契約に向けて明確に進展」(説明資料P.12)と、前回と同趣旨の表現にとどまりました。前回メモ作成時点(6月)から3か月経過しても表現が進んでいない点は、率直に言って停滞と評価せざるを得ません。2号機以降の受注の動きは「他の潜在顧客とも会話を継続」との記載のみで具体性はなく、顧客名の開示もありません。一方、収益モデルの開示は前進しており、運用中のLEXI衛星から1機あたり毎年10〜15百万ドル(約15〜23億円)程度の寿命延長料を想定と明示されています(説明資料P.12)。
受注残高363.5億円のうち民間向けはわずか3.9億円(約1.1%)。残りは全て政府・防衛機関向けです。政府案件は入札結果と予算に左右され、COSMICのように一発で消えることがあります。これに対し民間の寿命延長サービスは、契約が取れれば毎年継続的に料金が入る構造です。同社が掲げる「継続受注案件を通じた収益性向上」(短信P.5)の最初の実例がLEXI-Pであり、これが決まるかどうかが、受託開発企業からサービス企業へ変われるかの試金石と考えられます。
【最重要】防衛関連の継続受注
総合判定:×。米国MDA SHIELD IDIQの本契約進展については、今回の開示資料には一切の言及がありません。前回メモで「Competitive Range選定済」としていた案件ですが、進展・後退のいずれも確認できず、次回への持ち越し事項として最優先で確認すべき項目です。APS-Rをベースとした次案件については、具体的な後続案件の言及はありませんが、APS-R本体は相関振動試験が完了し環境試験を9月から開始、2027年4月期中の打上げに向けて順調に進捗と明記されています(説明資料P.7)。日本防衛省の継続案件は新規受注なし。既存の防衛省案件66億円(FY2025〜FY2028)が受注残に計上されているのみで、打上げフェーズは未受注、現時点で受注しているのはプロトタイプ開発のみである旨が注記されています。英国Orpheusの後続フェーズについても、受注残高に5.15百万ポンド(約9億円)が計上されているのみで後続に関する言及はありません。
防衛関連の受注残高は104.1億円→85.2億円へ減少しています(説明資料P.22)。パイプライン上は防衛47件・約1,970億円と最大セグメントですが、うち入札/契約交渉中は1件・約30億円にとどまります。防衛市場が政策段階から実需段階へ移行するという仮説は、政策面では前進したが受注面では未実現というのが今回の結論です。
【重要】打上げに向けた進捗
| プロジェクト | 進捗 | 判定 |
|---|---|---|
| APS-R(米・防衛) | 相関振動試験完了、環境試験9月開始。2027年4月期中打上げ予定を維持 | ○ |
| LEXI-P(米・民間) | ペイロード及びドッキングシステムのCDR完了 | ○ |
| ISSA-J1(日・政府) | 組立・統合・検証が順調に継続、電気試験実施中 | ○ |
| REFLEX-J(日・政府) | SRR完了、SDRに向けた準備が進捗 | ○ |
| ELSA-M(英・政府) | Stevenageの施設で熱真空試験完了、電磁適合性試験の準備進捗 | ○ |
| ADRAS-J2(日・政府) | 筑波で捕獲機構の振動試験実施、AIV正式開始。打上げ契約締結 | ◎ |
出典:決算説明資料P.6、P.7
ISSA-J1 Phase 3の契約締結はなされていません。前回メモで「今期実施されれば11億円の収益認識が期待できる」としていた案件ですが、契約に至っていません。通期予想レンジの上限170億円はこの契約が今期中に実施されることを前提の一部としているため、未締結が続けばレンジ下限寄りの着地確度が高まります。一方、ADRAS-J2の打上げ契約締結は前回メモにはなかった新展開です。欧州Isar Aerospace社の「Spectrum」ロケットでの打上げスロットを確保しました。打上げ予定時期は2028年4月期(日本政府2027年度)、契約金額の総額120億円(税抜)に変更はありません。
Isar Aerospace社の「Spectrum」は、2026年9月5日に実施した2回目の打上げで軌道到達に成功した段階です(説明資料P.6)。実績の浅い打上げ機に、世界初の本格的デブリ除去ミッションを載せる構図であり、打上げ失敗は同社の技術実績そのものを毀損しかねません。同社は「ADRAS-J2の打上げ前にも複数の打上げを予定しており、信頼性もますます高まることが期待される」としていますが、Spectrumの打上げ実績の積み上がりは継続確認項目です。
【特記】COSMICフェーズ3失注の正確な評価






英国宇宙庁(UKSA)が進める英国初の国家デブリ除去ミッションのフェーズ3において、同社の英国連結子会社の提案が採用されませんでした。2026年8月20日にUKSAが公表し、9月1日までの異議申立期間を経て、最短で9月7日以降に選定事業者と契約が締結される予定とされています(説明資料P.11)。受注したのはスイスのClearSpace(クリアスペース)です。契約金額は£61.3百万、落札公告は2026年8月21日に公表されています(外部報道:European Spaceflight他)。なお同社のIR開示では「当社以外の事業者」とのみ記載され、社名は明示されていません。
「技術で勝っていたのに負けた」という表現は不正確な可能性があります。同社は資料でこう述べています──当社の軌道上での実証実績、技術力、競争力のある価格設定を踏まえれば、当社提案に高い競争力があったとの考えは不変。提供された評価説明を確認したが、その内容が評価の帰結を十分に説明しているとは到底考えられず、現在も英国関係当局との協議を継続している(説明資料P.11)。これは一次資料ではありますが、あくまで「会社側の自己評価」です。第三者機関による技術評価でも、入札の採点結果でもありません。したがって「技術では勝っていた」と断定することはできず、正確には「同社は自社提案の競争力に高い自信を持っており、評価結果に納得していないと表明している。ただし、その主張を客観的に検証できる情報は開示されていない」と表現すべきと考えられます。
「技術優位=受注」にならなかった要因としては、公共調達の構造上、以下が考えられます。
第一に、入札評価は技術点だけで決まりません。技術的実現性・価格・納期・リスク管理体制・サプライチェーン構成などの総合評価方式で行われるのが一般的です。
第二に、自国産業育成という政策目的があります。UKSAはこの調達を「クリーンスペース超大国になるという政府の長期的コミットメント」と結びつけて位置付けており(UKSA年次報告書2025-2026)、競合のClearSpaceは英国子会社を通じて英国内コンソーシアムを組成し、当初から英国内での直接雇用創出を訴求してきました。日本発の企業である同社にとって、この軸での差別化は構造的に不利だった可能性があります。
第三に価格です。フェーズ3の入札予定価格は税抜£63百万(税込£75.6百万)に対し、落札額は£61.3百万。予定価格をやや下回る水準での決着であり、価格が評価に影響した可能性は否定できません。
第四に、この案件は2021年以降「COSMIC」対「CLEAR」の二者択一という構造的に勝率50%の設計だった点も挙げられます。
注目すべきは「負けた」という結果より、「実証実績で明確に上回る相手に負けた」という事実だと考えられます。同社はELSA-d・ADRAS-Jを通じて軌道上実証を完了しているのに対し、ClearSpaceはESAとの「ClearSpace-1」を進めているものの、現時点で軌道上実証を完了していません。つまり、軌道上実証実績という同社最大の差別化要因が、国家案件の受注には決定打とならなかったことになります。業界内でも「アストロスケールが取りこぼさない限り勝つ」という見方が優勢だっただけに、この結果は想定外と受け止められています。今後、同社が参加する入札案件(政府24件・約610億円、防衛47件・約1,970億円)について、「技術優位があるから取れるはず」という前提を置くべきではないと考えられます。パイプラインは「取れたら上振れ」として扱い、受注が確定した時点で初めて評価に織り込む保守的な姿勢が妥当です。
一方で限定的と評価できる点もあります。通期業績への影響はなく、通期予想の前提に織り込んでいなかったため予想修正は発生しません(短信P.2)。技術開発ロードマップへの影響も軽微で、COSMICで実証予定だった非協力物体へのRPO技術・複数物体へのRPO技術・ロボットアームを用いたデブリ捕獲技術は、ISSA-J1・ELSA-M・ADRAS-J2により実証見込みです(説明資料P.11)。英国事業基盤は維持されており、SDA・衛星防護システム「Borealis」に英国子会社がサブコントラクターとして参画(説明資料P.10)。「COSMICフェーズ3を上回る規模を含む複数の事業機会に対する提案活動を進めている」とされています。パイプライン総額も不変で、政府セグメントの想定受注総額約610億円は「COSMIC失注に関わらず不変」とされ、1件の大型新規案件が欧州で入札中と説明されています。
見落とされがちですが、失注の公表と同じ2026年9月11日に、フランス連結子会社ASFRによる初の軌道上ミッション受注が開示されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 契約先 | Exotrail(プライムコントラクター) |
| 契約金額 | 13.2百万ユーロ(税抜、23.6億円) |
| 契約期間 | 2030年まで(予定) |
| サービス | EOL(運用終了後の衛星の除去) |
| 内容 | フランス政府「France 2030」プログラムの下、低軌道のEutelsat OneWeb衛星へ接近・ドッキングし軌道離脱させる実証ミッション。実施は2029〜2030年 |
| 業績影響 | 通期予想に非算入。収益は複数事業年度に分散するため影響は軽微 |
出典:IR 2026年9月11日
規模は£61.3百万(約190億円)を失って23.6億円を得た計算であり、金額面では明確なマイナスです。ただし構造面では、英国一極依存から欧州分散へ向かう動きと読むこともできます。同社は英国に子会社と製造施設を持ち、英国案件は収益の柱の一つでしたが、今回それが政策的判断で失われうることが実証されました。フランス・欧州に受注チャネルが広がった意義は、金額以上のものがあると考えられます。
株価・需給面のチェック
| チェック項目 | 前回メモ(6/18時点) | 今回(9/11時点) | 判定 |
|---|---|---|---|
| 株価 | 1,331円 | 1,010円(▲24.1%) | × |
| ピーク(5/27前後) | 約2,700円 | ピークから▲62.6% | × |
| CB転換価額 | 2,208円 | 転換価額の45.7% | × |
| 戦略投資家取得単価 | 1,729円 | 取得単価の58.4% | × |
| 潜在希薄化率 | 10.4% | 未解消のまま | × |
| みんかぶ様目標株価 | 1,100円 | 1,289円(引上げ) | ○ |
| 時価総額 | 1,842億円 | 1,435億円 | × |
| PSR | 31倍 | 24.16倍(みんかぶ様) | △ |
| PBR | ― | 11.17倍(IRBANK様) | △ |
| 出来高 | 高水準 | 2,717,100株(5日移動平均比▲8.11%) | △ |
総合判定:×。CB転換価額2,208円までの戻りはなく、株価はその45.7%の水準です。前回メモの「CB転換価額が上値抵抗になる」という仮説は、株価がそこまで戻っていないため検証不能でした。むしろ問題は別の形で現れています。
株価1,010円が転換価額2,208円を大きく下回る状況では、CB保有者が株式に転換する経済合理性がありません。したがって転換社債223億円は当面、純粋な負債として貸借対照表に残り続けると考えられます。自己資本比率22.2%は転換による自動的な改善が期待しにくく、潜在希薄化率10.4%は解消も実現もしないまま宙吊りになります。CB満期2029年6月5日までに株価が転換価額を大きく上回らなければ、償還原資の確保が必要になる可能性があります。現預金349億円に対しCB223億円。満期時に転換されなければ、手元資金の約6割が償還に消える計算です。しかも同社は年間約169億円のペースで資金を使っています。
CBの転換実績は確認不能です。発行済株式数は6,215,100株増加していますが(短信P.2)、持分変動計算書上の内訳は新株の発行2,149,838千円と新株予約権の行使777,119千円であり(短信P.11)、CB転換による増加は記載されていません。上記の経済合理性からも、転換は進んでいないと考えられます。みんかぶ様目標株価は1,100円から1,289円へ引き上げられました。理論株価1,151円で「割安」判定、証券アナリスト予想は1,225円(9/12更新、強買1名・中立1名の計2名)。ただしカバレッジが2名と極めて薄く、目標株価の信頼度は限定的です。
【新規発見】信用需給が新たな上値抵抗に
| 日付 | 売り残(千株) | 買い残(千株) | 信用倍率 |
|---|---|---|---|
| 08/07 | 3,448.4 | 6,018.7 | 1.75 |
| 08/14 | 3,509.3 | 6,266.9 | 1.79 |
| 08/21 | 3,522.9 | 6,308.0 | 1.79 |
| 08/28 | 3,265.5 | 6,327.4 | 1.94 |
| 09/04 | 3,353.1 | 6,703.5 | 2.00 |
出典:かぶたん様(2026年9月11日時点)
信用倍率は1.75倍から2.00倍へ上昇し、買い残の整理は進んでいません。買い残6,703.5千株は発行済株式数の約4.7%で、一般的な要注意目安とされる2%を大きく超過。直近出来高の約2.5倍に達しています。株価が下落する局面で買い残が増加しており、下値で買い向かった信用買いが含み損を抱えている構図と考えられます。「CB転換価額2,208円が上値抵抗になる」という仮説は、株価がその半値以下にある現状では遠すぎて機能していません。実務的により近い上値抵抗として、信用買い残の滞留価格帯(概ね1,100〜1,400円と推定)を意識すべきと考えられます。好決算が出ても、この価格帯で戻り売り(やれやれ売り)が出やすく、踏み上げによる上昇も期待しにくい状況です。
外部環境・ニュースのチェック
米国の宇宙防衛予算の動向は今回資料に直接の言及がなく、米空軍研究所案件(8.7百万米ドル、約12億円、FY2026〜FY2027)が受注残に計上されているのみです(説明資料P.27)。日本の政策動向としては、2026年6月に宇宙開発戦略本部が宇宙基本計画工程表改訂に向けた重点事項を決定し、RPOを含むデュアルユース技術への戦略的支援を推進する方針を提示。同月、宇宙活動法の改正案が成立・公布され、人工衛星以外の軌道上物体も対象とした安全基準・認定制度が導入されました(短信P.2)。同社の事業領域が法制度上に位置づけられた点は中長期的に重要です。EU防衛・宇宙予算についても、2026年6月に欧州理事会が宇宙アセット及びサービスをEUの優先的な能力分野の一つとして改めて位置付け、加盟国に関連能力の開発加速を要請しています。英国の政策進展としては、Borealis運用開始(5月、同社英国子会社がサブコントラクターとして参画)、Cross-government SDA Requirements v3.0公表(6月)、Defence Investment Plan公表(6月、4年間で約2,980億ポンド投資、2029年までに年間防衛支出約800億ポンドへ拡大)があります。SpaceXのIPO関連報道は今回資料からは確認不能です。競合の動向としては、ClearSpaceが英国初の国家ADRミッション(£61.3百万)を獲得したことが最大のニュースで、軌道上実証実績を持たない競合が大型国家案件を獲得したという事実は競争環境の評価に直接影響します。前回メモで挙げていたNorthrop Grumman、Rocket Labについては今回資料に言及がありません。
シナリオ判定
| ポジティブ材料(2つ以上で評価引上げ) | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 受注残高が増加に転じた | ✕ | 379億円→363.5億円(▲4.2%) |
| LEXI-Pの民間契約が締結された | ✕ | 「最終段階」のまま、前回から表現変わらず |
| 新規防衛案件(特に米国)の受注があった | ✕ | 防衛受注残は104.1億円→85.2億円へ減少 |
| 2027/4期予想の上方修正があった | ✕ | 修正なし |
| 売上総利益率が改善(四半期で2%超) | ○ | 6.0%、過去5四半期で最高 |
| ネガティブ材料(2つ以上で評価引下げ) | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 受注残高が350億円を下回った | ✕ | 363.5億円で回避(余裕13.5億円) |
| 売上総利益が再び赤字転落 | ✕ | 72百万円の黒字 |
| 2027/4期予想が下方修正された | ✕ | 修正なし |
| LEXI-Pの契約締結がさらに先送りされた | ○ | 3か月経過も進展の表現変わらず |
| APS-Rなど打上げ予定の延期が発表された | ✕ | 2027/4期中打上げを維持 |
数字は予想レンジ内だが、新規受注も大きな進展もない「停滞」状態であり、CB満期2029年6月までの残り時間を意識した観察が必要です。ポジティブ・ネガティブいずれも「2つ以上」の基準に届かず、前回メモが3番目に挙げていた「停滞シナリオ」に最も正確に当てはまります。ただし単純な「何も起きなかった四半期」ではありません。COSMIC失注(想定外のマイナス)、フランスCNES受注(想定外のプラス)、ADRAS-J2打上げ契約締結(想定外のプラス)という、チェックリストに載っていなかった事象が3つ同時に起きています。
仮説①〜⑤の検証結果
| # | 仮説 | 検証結果 | 判定 |
|---|---|---|---|
| ① | 受注残のピークアウトは「時期ずれ」であり、本質的な需要消失ではない | 1Q受注高2.2億円は時期ずれで説明可能な範囲。ただし競合不在の受注内定済105億円すら動かなかった点は説明を要する。パイプライン総額610億円(政府)は不変 | 判定保留(2Qが分水嶺) |
| ② | 売上総利益の黒字化は構造的・持続的 | 四半期6.0%は過去5四半期で最高。全額拠出案件比率94%という構造要因が裏付け | 支持寄り |
| ③ | 2027/4期予想は保守的で上方修正余地がある | 上方修正なし。ただし仏CNES案件23.6億円は予想に非算入で上振れ要因として残存。ISSA-J1 Phase3(11億円)も未実現 | 未検証 |
| ④ | CB調達により2,208円が上値抵抗になる | 株価がそこまで戻らず検証不能。代わりに信用買い残4.7%という別の上値抵抗が出現。転換が進まない=負債滞留という別のリスクが顕在化 | 書き換えが必要 |
| ⑤ | 防衛市場の追い風は政策段階から実需段階へ移行する | 政策面は大きく前進(英・日・EU)。しかし防衛受注残は減少し、新規防衛受注はゼロ | 部分的支持(政策○/実需×) |
継続チェック 判定サマリー
| 大項目 | 判定 | 一言 |
|---|---|---|
| 受注残高の動向 | △ | 懸念ラインの手前で踏みとどまるも、反転の兆しなし |
| 売上総利益の継続性 | ○ | 四半期6.0%で過去最高。構造改善が裏付け |
| キャッシュフロー・現預金 | △ | 349億円確保もランウェイは約2.1年とメモ想定より短い |
| 2027/4期予想 | ○ | 修正なし。ただし進捗はレンジ下限寄り |
| LEXI-Pの民間契約 | × | 3か月経過も「最終段階」のまま |
| 防衛関連の継続受注 | × | 新規ゼロ、防衛受注残は減少 |
| 打上げ進捗 | ○ | 全案件順調。ADRAS-J2は打上げ契約締結で◎ |
| COSMICフェーズ3 | × | ClearSpaceに失注。実績で劣る相手に敗れた事実は重い |
| 株価・需給 | × | CB転換価額の45.7%、信用買い残4.7%が重し |
| 外部環境 | ◎ | 英・日・EUで政策が予算・法制度レベルへ具体化 |
事業・競争力の評価
本業の稼ぐ力:×
営業損失は継続的に計上されており、1Qの営業利益率は▲230.0%。ROE・ROAはいずれも算定不能です。売上収益は前年同期比▲4.4%、プロジェクト収益は▲14.5%と減収。同社は「収益認識の遅延」「1Qは例年低進捗」と説明していますが(説明資料P.14)、現時点で「稼ぐ力」を評価できる段階には至っていないと考えられます。ただし、売上総利益が過去5四半期で最高の72百万円・6.0%となった点、長期財務目標として売上総利益率30%台半ば・営業利益率20%台半ばを明示している点(短信P.5)は、方向性としては前進です。
財務の健全性:△
プラス面として、資金調達により現預金349億円を確保。借入金は75.5億円→52.5億円へ減少しており、短期の資金繰り懸念は後退しました。マイナス面として、自己資本比率22.2%、有利子負債304.7億円(うち転換社債223.2億円)。フリーCFは継続的にマイナスで、黒字化の時期は明示されていません。さらに株価が転換価額2,208円を大きく下回るため、転換による自己資本の自動的な改善が期待しにくい状況です。実績ベースのランウェイは約2.1年(349億円÷年間流出169億円)、CB満期は2029年6月5日(残り約2年9か月)。満期時に未転換なら手元資金の約6割に相当する償還原資が必要です。総合すると、「当面2年は問題ないが、2年以内に黒字化の道筋が見えなければ、CB償還と運転資金の両方を賄う新たな調達が必要になる」構図と考えられます。
経営方針の透明性:◎
赤字企業としては、開示姿勢は高水準と評価できます。業績予想をレンジ方式で開示し、上限・下限の前提条件まで説明(説明資料P.23)。受注残高を「受注済」と「受注内定済」に分解し、案件別の契約金額・契約期間・打上げ年度まで開示(P.26-27)。潜在パイプラインを「潜在案件/事前協議中/入札・契約交渉中」の3段階で件数・金額とも開示(P.12)。失注という不利な情報を、自らの見解とともに率直に開示(P.11)。Non-IFRS指標について、算定方法と限界を毎回注記しています。一方、黒字化の目標時期が示されていない点、年度単位の数値KPIを伴う中期経営計画が示されていない点は改善余地と考えられます。
市場環境コメント
追い風は明確です。英国は「Defence Investment Plan」で今後4年間に約2,980億ポンドを投資し、2029年までに年間防衛支出を約800億ポンドへ拡大する計画を公表(説明資料P.10)。日本では2026年6月に宇宙活動法改正案が成立し、人工衛星以外の軌道上物体も対象とした安全基準・認定制度が導入されました(短信P.2)。欧州理事会も宇宙アセットをEUの優先能力分野として再確認しています。つまり、「デブリ除去と軌道上サービスは国家安全保障の課題である」という認識が、政策・予算・法制度のレベルで定着しつつある局面です。市場規模の拡大自体は、かなり確度が高いと考えられます。問題は、その拡大した市場を同社が取れるかです。
直接競合として最も明確なのは、スイスのClearSpaceです。両社は2021年以降、英国宇宙庁の国家デブリ除去ミッションで「COSMIC」対「CLEAR」という一騎打ちの構図で並走してきましたが、2026年8月にClearSpaceがフェーズ3(£61.3百万)を獲得しました。注目すべきは両社の実績差です。同社はELSA-d・ADRAS-Jで軌道上実証を完了しているのに対し、ClearSpaceはESAとの「ClearSpace-1」を進めているものの、現時点で軌道上実証を完了していません。実証実績で明確に上回る側が、国家案件では敗れたことになります。この構図は、軌道上サービス市場が「技術的優位が自動的にシェアに転換する市場ではない」ことを示唆すると考えられます。特に政府・防衛案件では、自国産業育成や価格が評価に大きく影響する可能性があり、同社の海外展開における構造的なハードルとして認識しておく必要があります。
リスク要因
- 顧客集中リスク(極めて高い):受注残高の約98.9%が政府・防衛機関向け。政策・予算・入札結果という企業努力で制御しきれない要因に業績が左右される
- 単一案件依存リスク:ADRAS-J2(120億円)、ISSA-J1(120億円)、REFLEX-J(108億円)の3案件で受注残高の大半を占める
- 技術・打上げリスク:ADRAS-J2はIsar Aerospace社「Spectrum」での打上げだが、同ロケットは2026年9月5日の2回目打上げで初めて軌道到達に成功した段階
- 為替リスク(両面):1円の円安でプロジェクト収益は米ドル+22百万円・ポンド+7百万円押し上げられる一方、その他販管費も円安の影響等により21.2%増加
- 転換社債が「転換されない」リスク:株価1,010円が転換価額2,208円を大きく下回るため転換が進まず、223億円が負債として滞留。満期時に未転換であれば手元資金の約6割に相当する償還原資が必要となる可能性
- 需給リスク:信用買い残が発行済株式数の4.7%(6,703.5千株)、信用倍率2.00倍。戻り局面での売り圧力が想定される
大株主構成とアクティビストリスク
| 株主名 | 持株比率 |
|---|---|
| 岡田光信 | 18.28% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.48% |
| BNY GCM CLIENT ACCOUNT JPRD | 3.30% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 3.29% |
| 株式会社グーニーズ | 2.82% |
| CEPLUX-THE INDEPENDENT UCITS PLATFORM 2 | 2.80% |
| ヒューリック株式会社 | 2.70% |
| STATE STREET BANK AND TRUST 505019 | 2.51% |
| BNYM SA/NV FOR BNYM FOR BNY GCM | 2.45% |
| JP JPMSE LUX RE UBS AG LONDON BRANCH | 2.35% |
| 上位10名計 | 43.96% |
出典:有価証券報告書(2026年4月30日現在)
創業者である岡田CEOが18.28%を保有し筆頭株主です。それ以外は信託口・海外機関投資家のカストディ名義が中心で、アクティビストの持分は確認できません。創業者の経営権が安定しており、短期的な株主提案リスクは低いと考えられます。ただし海外機関投資家名義が上位に複数並んでおり、海外勢の売買動向が株価変動を増幅しやすい点は留意が必要です。ヒューリック様(2.70%)は事業会社であり、事業シナジーの有無は今後の確認事項と考えられます。
設備投資と減価償却の負担
有形固定資産は11,063→11,588百万円、無形資産は1,822→2,353百万円へ増加。LEXI-P衛星の製造コストとミッション関連ソフトウェアの資産計上によるものです(説明資料P.19)。減価償却費は242→273百万円(+12.8%)と増加基調にあります。同社が今期から調整後EBITDAの開示を開始したのは「衛星の資産化開始等も踏まえ」との説明があり、今後、減価償却負担が営業損益を押し下げる局面を見越した指標追加と考えられます。投資回収は打上げ後のサービス提供開始が前提です。LEXI-Pは1機あたり年10〜15百万ドル(約15〜23億円)の寿命延長料を想定していますが、回収開始は早くても2027〜2028年以降と見込まれます。
総合評価:C(S/A/A-/B/B-/C/C-/D/Eの9段階中6番目)
シナリオ判定がポジティブ1件・ネガティブ1件で「停滞」に該当したため、前回からの引上げ・引下げいずれの条件も満たさず、C据え置きが妥当と判断します。
- 営業赤字が継続し、黒字化時期が示されていない
- 1Qの受注高が前年同期比▲84.4%。競合不在の内定済案件105億円すら動かなかった
- PER・ROE・営業利益率といった「成長株として評価する物差し」が軒並み使えない
- CB転換価額2,208円に対し株価が45.7%であり、資本増強の自動的な進行が期待できない
- 実証実績で劣る競合に国家案件を奪われ、技術優位の受注転換力に疑問符がついた
- 信用買い残4.7%という需給の重し
- 現預金349億円で約2.1年の資金余力を確保し、当面の存続リスクは後退
- 受注残高363.5億円÷平均案件期間2.6年=年間約140億円の収益転換ペースが通期予想レンジと整合
- 全額拠出案件比率94%、平均案件期間2.6年と、収益の「質」は明確に改善
- 四半期売上総利益率6.0%と過去最高
- 政策的追い風が政策レベルから予算・法制度レベルへ具体化
- 失注を率直に開示するIR姿勢
- ADRAS-J2の打上げ契約締結、フランスCNES案件の受注という新展開
同社はバリュエーションで評価する銘柄ではなく、マイルストーン(受注・契約締結・打上げ)で評価する銘柄と考えられます。したがって「割安だから買う」という判断は成立しにくく、「次の受注が取れるか」「打上げが成功するか」というイベントに賭ける性質の投資になります。投資初心者〜中級者の方が主力として仕込む対象としては、リスクが高すぎると考えられます。
適正株価試算
同社は赤字のため、EPS×PERアプローチは適用できません。代替として、①PSR法(プロジェクト収益倍率)、②BPS×PBR法の2点セットで試算します。
PSR法(プロジェクト収益ベース)
現在の時価総額1,435億円。2027年4月期のプロジェクト収益予想125〜170億円に対し、PSR(プロジェクト収益倍率)は8.4〜11.5倍の水準です。前回メモ時点のPSRは31倍でしたから、バリュエーションの水準は大きく切り下がっています。
| シナリオ | 想定プロジェクト収益 | 想定PSR | 適正時価総額 | 適正株価 | 現株価比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 強気 | 170億円(上限達成)+新規大型受注 | 12倍 | 2,040億円 | 1,436円 | +42% |
| 中立 | 147億円(レンジ中位) | 10倍 | 1,470億円 | 1,034円 | +2% |
| 保守的 | 125億円(下限) | 8倍 | 1,000億円 | 704円 | ▲30% |
| 弱気 | 110億円(下限割れ) | 5倍 | 550億円 | 387円 | ▲62% |
※発行済株式数142,120,700株で算出
BPS×PBR法
1Q末BPS 90.44円(IRBANK様)。IRBANK様によれば2025-2026年の実績PBRレンジは9.84〜30.33倍で、現在の11.17倍はレンジ下限近辺です。
| シナリオ | 想定BPS | 想定PBR | 適正株価 | 現株価比 |
|---|---|---|---|---|
| 強気 | 90.4円 | 20倍 | 1,808円 | +79% |
| 中立 | 90.4円 | 12倍 | 1,085円 | +7% |
| 保守的 | 90.4円 | 9.8倍(レンジ下限) | 886円 | ▲12% |
| 弱気 | 90.4円 | 6倍 | 542円 | ▲46% |
転換社債223億円の転換価額は2,208円です。現在の株価1,010円はその45.7%にとどまるため、CB保有者が株式に転換する経済合理性は当面生じないと考えられます。したがって、自己資本比率22.2%は転換による自動的な改善が期待しにくいこと、潜在希薄化率10.4%は解消も実現もしないまま宙吊りになること、CB満期2029年6月5日までに株価が転換価額を大きく上回らなければ償還原資の確保が必要になる可能性があることの3点を織り込む必要があります。現預金349億円に対しCB223億円。満期時に転換されなければ、手元資金の約6割が償還に消える計算です。「PBRの高さはそのうち自然に解消される」という見方は、現時点では成立しないと考えられます。なおIRBANK様の11.17倍は1Q末BPS(約90.4円)ベース、みんかぶ様の18.74倍は前期末BPS(約56.3円)ベースと考えられます。資金調達により自己資本が7,657→12,853百万円へ67.9%増加したため、どの時点のBPSを使うかで数値が大きく変わります。本記事では1Q末の90.44円を採用しています。
2点セットの整合性
| シナリオ | PSR法 | PBR法 | 中間値 | 現株価比 |
|---|---|---|---|---|
| 強気 | 1,436円 | 1,808円 | 約1,620円 | +60% |
| 中立 | 1,034円 | 1,085円 | 約1,060円 | +5% |
| 保守的 | 704円 | 886円 | 約795円 | ▲21% |
| 弱気 | 387円 | 542円 | 約465円 | ▲54% |
中立シナリオ(約1,060円)が現在株価1,010円とほぼ一致しており、市場は現在、「通期予想のレンジ中位を達成する」という前提で同社を評価していると考えられます。
株価ラインの俯瞰──この銘柄を見るときの地図
| 参照価格 | 水準 | 現株価1,010円との関係 |
|---|---|---|
| 2026年5月ピーク | 約2,700円 | +167% |
| CB転換価額 | 2,208円 | +119%(強気シナリオでも届かない) |
| 第三者割当発行価格(戦略投資家取得単価) | 1,729円 | +71%(強気シナリオでも届かない) |
| 個人投資家予想(みんかぶ様) | 1,661円 | +64% |
| 強気シナリオ(本試算) | 約1,620円 | +60% |
| 前回メモ時点の株価(6/18) | 1,331円 | +32% |
| みんかぶ様目標株価 | 1,289円 | +28%(前回1,100円から引上げ) |
| 証券アナリスト予想(2名) | 1,225円 | +21% |
| みんかぶ様理論株価 | 1,151円 | +14% |
| 中立シナリオ(本試算) | 約1,060円 | +5% |
| 現在株価(9/11) | 1,010円 | ― |
| 保守的シナリオ(本試算) | 約795円 | ▲21% |
| 弱気シナリオ(本試算) | 約465円 | ▲54% |
本試算の強気シナリオ(約1,620円)ですら、戦略投資家の取得単価1,729円にもCB転換価額2,208円にも届きません。つまり、業績が予想レンジの上限で着地しても、6月の資金調達に応じた戦略投資家は含み損のまま、転換社債も転換されない、という計算になります。今の株価は、強気シナリオが実現しても、3か月前に会社が資金調達した価格には戻らない水準にある。これが現状を最も端的に表す事実だと考えられます。
弱気シナリオが現実になる条件
- 受注残高が350億円を下回る(今回363.5億円。余裕は13.5億円のみ)
- 2Q・3Qも受注高が数億円規模にとどまり、年間受注高が前期84.5億円を大きく下回る
- 通期プロジェクト収益が下限125億円を割り込み、業績予想の下方修正が発生する
- APS-R(2027年4月期中打上げ予定)またはADRAS-J2の打上げが失敗、あるいは大幅に遅延する
- 入札中の大型案件(政府約130億円、防衛約30億円、民間約70億円)が連続して失注する
- 2028年後半までに黒字化の道筋が見えず、CB償還と運転資金を賄う追加調達が必要となる(ランウェイ約2.1年からの逆算)
みんかぶ様目標株価との比較
みんかぶ様の目標株価は前回1,100円から1,289円へ引き上げられました。現在株価を27.6%上回り、本試算の中立(約1,060円)と強気(約1,620円)の中間に位置します。理論株価1,151円で「割安」判定、証券アナリスト予想1,225円(2名)です。本レポートの試算からは、1,289円は「通期予想の上限に近い達成+新規受注の一部実現」を織り込んだ、やや強気寄りの水準と考えられます。ただしカバレッジアナリストが2名と極めて少なく、目標株価の信頼度は限定的である点に留意が必要です。個人投資家予想1,661円(買い83%・売り17%)はさらに強気ですが、これは信用買い残4.7%の積み上がりと整合的であり、期待がそのまま需給の重しに転化している構図とも読めます。
「今仕込む」判断の目安となる株価水準
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| なぜ今話題なのか | 5月に約2,700円をつけた後、306億円の大型調達(6月)、英国COSMICフェーズ3の失注(8月、スイスClearSpaceが£61.3百万で受注)、フランスCNES案件受注とADRAS-J2打上げ契約締結(9月)と材料が交錯。株価はピークから約63%下落し、宇宙防衛テーマの本命かどうかで市場の見方が割れている |
| 外部目標株価との比較 | みんかぶ様目標株価は1,100円→1,289円へ引き上げ(+27.6%)。理論株価1,151円「割安」、アナリスト2名平均1,225円。本試算の中立約1,060円よりやや強気寄りだが、カバレッジ2名と薄い |
| 割高・割安感 | PERは赤字で算定不能。PBR 11.17倍は実績レンジ9.84〜30.33倍の下限近辺、PSRは前回31倍から8.4〜11.5倍へ低下。「割安」ではないが「調整は相当進んだ」水準 |
| 強気シナリオの根拠 | 受注残高363.5億円÷平均案件期間2.6年=年間約140億円の収益転換ペース、全額拠出案件比率94%、四半期売上総利益率6.0%(過去最高)、英・日・EUでの政策的追い風、入札中の大型案件3件(計約230億円)、受注内定済105億円の契約化 |
| 最大のリスク(一言で) | 受注残高363.5億円が、懸念ラインとした350億円まで13.5億円しか余裕がないこと。四半期受注高2.2億円のペースが続けば、次回にはこのラインを割り込む可能性がある |
条件面では、前回メモのポジティブ材料5項目のうち2つ以上(受注残高の反転/LEXI-P民間契約の締結/新規防衛案件の受注/通期予想の上方修正/売上総利益率の改善継続)が確認できることが望まれます。特に受注内定済105億円の契約化が最短の確認ポイントです。株価面では、保守的シナリオ795円前後を下値目処とした分割・少額に限定するのが現実的と考えられます。また信用買い残が発行済株式数の2%以下へ整理されることも、需給面での重要な条件です。
【対談】5つの論点で読み解くアストロスケール
ここからは、今回の決算で浮かび上がった論点を、所長と車野アナリストの対話形式で深掘りします。
論点①:「受注ゼロに近い四半期」をどう読むか












論点②:実績で勝っていた側が負けた──英国国家案件、スイス企業に敗れる












論点③:「プロジェクト収益」という独自指標の読み方












論点④:転換価額2,208円──転換されない転換社債は、ただの借金












論点⑤:日本発の宇宙ベンチャーは、どこで儲かるようになるのか












まとめ
- 1Q受注高は前年同期比▲84.4%と急減。ただし受注残高363.5億円は懸念ライン350億円の手前で踏みとどまり、余裕は13.5億円のみ
- 四半期売上総利益率6.0%で過去最高。全額拠出案件比率94%という構造改善が裏付け
- 現預金349億円を確保も、実績ベースのランウェイは約2.1年とメモ想定より短い
- 英国COSMICフェーズ3をスイスClearSpaceに失注。実証実績で上回る側が国家案件で敗れた事実は重い
- 同じ四半期にフランスCNES案件(23.6億円)を受注、ADRAS-J2の打上げ契約も締結
- 転換社債223億円は転換価額2,208円に対し株価が45.7%にとどまり、当面は負債として滞留する見込み
- 信用買い残が発行済株式数の4.7%と需給の重し。総合評価はC据え置きで、打診買い・分割投入が現実的






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情報基準日:作成日20260912
本記事に登場する「車野蔵人(くるまの くろうど)」は、AIが生成した架空のキャラクターです。実在する人物・アナリストとは一切関係ありません。
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